オキシトシンは陣痛発来に強く関与し、これは低出生体重児の分娩で医学的、かつ社会的に問題になっている早産陣痛発来のメカニズムも同様に考えることが出来る。一方、産科臨床において、周産期の児の死亡や疾病の大きな原因に、早産によるいわゆる未熟児の出生があるのも周知の事実である。その早産を予防するために、現在、切迫早産症例の薬物療法として塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムの投与が主流となっている。しかしながら、それらの薬剤では効果が不十分な症例も多く、新たな薬剤の開発が望まれてきた。そこで本研究では、それらの薬剤とは作用機序が全く異なるオキシトシン拮抗剤の臨床応用への道を拓くために、その可能性を明らかにすることを目的とした。妊娠ラットにおける妊娠進行に伴う変化を観察すると、子宮筋のオキシトシン結合部位数は妊娠22日(分娩日)に急速に増加し、反対に血中プロゲステロンは急速に減少した。血中オキシトシンは同日の陣痛発来時に急速に増加したが、早産モデルラットにおいても同様の変化が認められた。そこで、オキシトシン拮抗剤は、構造的に(1)ペプチド型、(2)環ペプチド型、(3)非ペプチド型に分けられるが、今回は(1)と(3)の妊娠ラット子宮収縮への効果を検討した。その結果、共に妊娠末期の自発性子宮収縮やオキシトシン誘発収縮は抑制し、早産モデルラットにおいても陣痛発来を遅延させた。さらに(3)においては、高濃度で直接的に子宮筋に作用して収縮を抑制した。(1)は合成費用が高いことや胃内で分解されることが知られているが、この研究で得られた事実より、内服投与のできる(3)の臨床応用の可能性が示唆された。
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