子宮体部腫瘍性病変を臨床病理学的に再分類し、各発癌段階に特徴的な分子生物学的変異を同定することにより、子宮体部癌の発癌過程を解明することを目的とした。隣接する臨床部門と協力して、informed consentの得られた子宮体部腫瘍患者の手術材料より、腫瘍部及び正常部*の新鮮組織材料を採取した。組織材料は一旦凍結保存した後、DNA抽出及び病理組織学的検索に供した。詳細な臨床病理学的検討により以下の結果を得た。 1.DNAの修復機構の喪失と関連するreplication errorに基づく遺伝的不安定性の有無を全例で解析した。遺伝的不安定性は、解析した子宮体部癌例の30%弱と高率にみられた。 2.遺伝的不安定性に基づく発癌過程において、そのターゲットになっていることが予測される、TGFβRII、BaX、E2F、PTENの各遺伝子について変異分析をした。遺伝的不安定性が認められる症例では、TGFβRII、BaX、PTENの各々に高率な変異が同定された。 3.CGH(comparative genomic hybridisation)法により、全染色体上の遺伝子コピー数の増減の有無を検索した。TGFβRII、BaX、PTENに変異の同定された症例では、それぞれの対応する染色体上の座位にコピー数の減少がみられる傾向にあった。遺伝子的不安定性をみとめる子宮内膜癌にみられたPTEN遺伝子変異の場合特に、対側アレルの欠失を高率にみとめることをCGH法により初めて推定した。PTEN遺伝子の変異は、子宮内膜癌の発癌過程に深く関わっている。 また、CGH解析の結果、1q、9qに特に高率にcopy数の減少がみられ、2q、12qには特に高率なcopy数の増加が認められた。 4.子宮内膜癌において、PTEN遺伝子の変異の予後因子との関係をみると、PTEN遺伝子変異を認める症例では、G1体癌、progesteron陽性症例が有意に多く、予後良好な因子との相関がみられた。 5.子宮内膜癌において、β-cateninの細胞内異常蓄積が高率に見られた。β-cateninの異常蓄積は遺伝的不安定性をみとめる場合には特に高率だが、PTEN遺伝子変異の有無及び予後因子とは相関しなかった。
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