研究概要 |
研究対象:cisplatin併用療法が行われた1980年から1999年に当科で初回治療を受けた卵巣癌症例及び培養細胞株を用いたin vitro,in vivo実験系 [I]臨床病理学的研究 1)新分化度診断の再現性:本研究により考案された診断法自体の再現性を確認することは最も重要である.研究代表者が各組織型毎に10枚ずつ病理標本を選出し、他2名の病理研究者を含めた3名で、構造異型、核異型、核分裂数を判定した結果、最終的に分化度の一致率は94%であった. 2)新分化度の予後因子としての意義の検討:卵巣癌を進行期TNM分類のT1,2,3別層別化した上で、生存期間、非増悪期間を指標として相関性を、FIGOの分化度診断法と比較した.何れの進行期に於いても、新分化度診断法は機能した.そして、多変量解析にて、早期(T1,2),進行期(T3)共に、最も有用な予後因子であることを確認した.旧来のFIGO分化度は有意な因子になり得なかった. 3)新分化度と化療の関係:cisplatin感受性と判明した組織型(漿液性、類内膜、移行上皮癌)に於いて、初回臨床効果(CR+PR)はG1:86%,G2:90%,G3:83%で分化度による差異は認められなかった.しかし、G3ではG1,2に比しCR率が有意に低いことに加え、非増悪期間が短く、再燃、再発率も有意に高頻度であった.そして、再発時の第2回目の化療の奏効率はG1:75%,G2:73%,G3:47%と有意に低下した.即ち、G3では獲得耐性の頻度が高いことが判明した.このことが、G3予後不良の一因になっていると考えられた. 4)新分化度とT1腫瘍に於ける大動脈リンパ節転移との関連性:昨年までの研究により、卵巣癌の一次リンパ節は大動脈卵巣血管分岐部周囲であることが判明.腫瘍が卵巣に限局したT1でのリンパ節転移と腫瘍の分化度との関連性を検討した結果、G1:0%(0/73),G2:23%(10/44),60%(15/25)で、低分化腫瘍程リンパ節転移の頻度が有意に上昇した. 5)新分化度と各種指標との関連性:新鮮な腫瘍組織の一部を用いて、薬剤耐性遺伝子(MDR1,MRP,LRP)をRT-PCR法にて調査.また、apoptosis関連遺伝子(p53,bax)、増殖因子(c-er bB-2)を免疫染色により調査した.何れの因子との間にも有意の相関は認められなかった. [II]基礎実験系 1)腫瘍の増殖速度と新分化度との関連性:これまでの研究から新分化度は腫瘍の増殖速度と関連していると考えられる.In vitro培養系、in vivo移植腫瘍での腫瘍のdoubling timeと分化度との関連性を調査した.新分化度とdoubling timeは負の相関を示した.
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