マウスエイズウイルスは乳汁を介して100%の高率で母子感染し、40週前後で約1/3が免疫不全症を発症する。残りのマウスは、キャリアー状態を示す。感染が成立しても発症しないメカニズムの解析は、ヒトのウイルス感染症やキャリアーからの発症予防に貢献するものと考えた。そこで、今回、乳汁を介して感染が成立することに注目し、経口的に体内に入ったウイルス抗原に対する免疫反応を解析した。マウスエイズウイルスは、gag遺伝子以外の構造遺伝子が欠損しているので、gag遺伝子が病因と考えられている。そこで、マウスエイズウイルスが持続感染しているBリンホ-マ細胞(B6マウス由来)に多量のgag蛋白質が発現しているので、この細胞株を抗原として用いた。胃内投与ではマウスに感染しないことを確認後、B6マウスに1匹当たり2×10^7個の細胞を1日おきに計3回胃ゾンゲを介して、胃内に投与した。初回投与後、10日目にマウスからパイエル板を摘出し、リンパ球を調整し、機能を検索した。その結果、PBS投与のマウスに比較して、抗CD3抗体刺激によるT細胞の活性化の抑制(γ-インターフェロンの産生抑制)とgag抗原に対する反応性の抑制が認められた。精製したT細胞を用いても同様の現象が認められ、少なくともT細胞にウイルス抗原に対し経口トレランスが誘導されたと考えられた。今後、パイエル板で誘導されたトレランスが全身に誘導されるメカニズムを週令を追って解析し、トレランス誘導によるマウスエイズウイルスの発症が抑制されるか検討する予定である。
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