RT-PCR法、DNAシークエンスにより、ラット内耳にはHGFとHGFの高親和性受容体であるc-metのmRNAが発現している事が確認された。ラットHGF.c-metに対するポリクロナール抗体を用いた免疫組織化学法により、これらの蛋白はコルチ器内の有毛細胞および支持細胞に発現していることが示唆された。正常ラットのラセン神経節細胞にはHGF、c-metの発現は見られなかった。 次に、カナマイシン負荷により聾としたラットにHGFを全身投与して、ラセン神経節細胞、有毛細胞、蝸牛神経核細胞の生存率に対する影響を調べた。その結果、HGF投与群のラセン神経節細胞と有毛細胞の生存率は、非投与群との間に有意の差を示さないものの、蝸牛神経核細胞の生存率は、HGF投与群において非投与群と比較して有意(危険率5%以下)に高値を示した。また、カナマイシン聾ラットのラセン神経節細胞内にはc-met蛋白の発現を認めた。 以上のことから、増殖因子HGFは、その受容体であるc-metを活性化することで、ラセン神経節細胞、有毛細胞、支持細胞、蝸牛神経核細胞に何らかの生理作用(保護作用)を示すものと考えられた。
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