研究概要 |
内耳虚血は突発性難聴の原因の一つと考えられるが、これによる障害のメカニズムについては不明な点が多い。本研究では一過性内耳虚血による聴覚障害においてグルタミン酸がどのような役割を果たすかを明らかにする目的で実験を行った。 実験動物には先天的に後交通枝が欠損したスナネズミを用い、両側の椎骨動脈を5分間遮断して内耳虚血を作成し、虚血前後における外リンパ中のグルタミン酸濃度を経時的に測定した。その結果、虚血前の状態で鼓室階が0.35±0.22pmol/μl,前庭階が0.42±0.32pmol/μlであったが、虚血直後よりグルタミン酸濃度は著明に上昇し、鼓室階では血流再開2.5分後に11.72pmol/μl(n=12)となり、その後は徐々に減少した。前庭階では濃度上昇は緩徐であり、血流再開20分後に最高値8.49pmol/μl(n=6)を記録したが、45分後には鼓室階と同程度となった。また同じ条件で蝸電図を測定すると、蝸牛血流遮断によりCAPは消失、血流再開とともに回復したものの、60分後の測定では13dBの閾値上昇を残した(n=6)。さらに長期の観察では、2日目に閾値は完全に虚血前に回復したが、7目以降は悪化する例が6例中3例でみられ遅発性の障害が生じた。 透過電子顕微鏡による検討では、虚血負荷後の形態変化は外有毛細胞よりも内有毛細胞とそのシナプス間隙において顕著であり、空胞変性などがみられた。動物にあらかじめグルタミン酸拮抗剤であるDNQXを投与しておくと、このような虚血による形態的変化は生じなかった。
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