研究概要 |
本研究では、内耳の神経伝達物質であるグルタミン酸による内耳障害の可能性、内耳虚血によるグルタミン酸遊離の程度、内耳虚血による聴力の推移と組織像、グルタミン酸アンタゴニストによる内耳障害の防御効果、について検討した。 1. モルモットの鼓室階外リンパ腔にグルタミン酸あるいはアゴニストであるAMPAを投与し蝸電図および組織像を検討した。その結果、これらの投与によりCAP閾値は著明に上昇し,グルタミン酸が内耳障害をおこすことを確認した。組織学的には内有毛細胞とシナプスを形成する一次求心神経の樹状突起の変化が顕著であった。 2. スナネズミの椎骨動脈血流を遮断することにより5分間の内耳虚血を負荷し、経時的に外リンパ中のグルタミン酸濃度を測定した。その結果、はじめは鼓室階、遅れて前庭階の外リンパ中グルタミン酸濃度が上昇し、最大で約30倍に達した。 3. 内耳虚血動物のABRを経時的に記録すると、虚血直後は無反応となるが徐々に回復し、3日目には域値は正常となった。しかし5日目以後、半数の動物でABR閾値は再び上昇し15dB以上の難聴をきたした。組織学的には内有毛細胞とその求心性シナプスに膨化・変性など高度の変化がみられたが、これらは遅発性神経細胞死による障害メカニズムによると考えられた。 4. グルタミン酸のアンタゴニストであるDNQXをあらかじめ投与しておくと、内耳虚血を負荷しても、内有毛細胞や求心性シナプスには変化がおこらず、遅発性神経障害は生じなかった。 以上の結果から、急性難聴の原因の一つと考えられる一過性虚血による内耳障害メカニズムにグルタミン酸のexcltotoxicityが関与すると結論した。また虚血負荷前に、あらかじめグルタミン酸アンタゴニストを前投与しておくと、内有毛細胞やその求心性シナプスに変化は生じず、内耳障害が防御できる可能性が示された。
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