組織型や分化度だけでは、癌の悪性度に関する情報としては不十分であるのが現状である.細胞間接着分子であるE-カドヘリンは組織の形態を保持するうえで重要な役割を果たしているばかりではなく、癌の悪性度にも関与していることが報告されている。頭頚部癌におけるE-カドヘリンの機能を基礎的に検討した。E-cadherinによる癌細胞間の接着を阻害した場合、基質分解酵素であるMMP2(matrix metalloproteinase-2)およびMMP9の酵素活性の増大が観察された。再構成基底膜への浸潤能の増強はこの細胞外基分解酵素が関与していることが示唆された。血管新生への影響については、VEGFの産生増加が認められ、このシグナルは細胞内のチロシンリン酸化によって細胞の核に伝わり、VEGF(vascular endothelial growth factor)の発現を誘導したと考えられた。以上のことから、細胞間接着分子であるE-カドヘリンは細胞間の接着だけではなく、細胞の浸潤性および、血管新生の誘導にも関与する重要な分子であることが示された。このE-cadherinの遺伝子変異についてゲノムレベルで変異を調べた。頭頚部癌9症例中1例でcytoplasmic domainのexon16にアミノ酸変異を伴う変異が認められた。同部は細胞内へのシグナル伝達に必要不可欠であることから、頭頚部癌細胞の悪性度の変化に影響を及ぼしていることが推察された。
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