1983年から1997年までに慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科で診断し初回治療を行った頭頚部扁平上皮癌症例のうち、無作為に選択した89例の原発巣の10%ホルマリン固定パラフィン包埋切片を材料に用いた。89例の内訳は、中咽頭癌が36例、下咽頭癌が18例、舌・口腔底癌が35例である頭頚部扁平上皮癌89例の切除標本におけるCD44st、CD44v6、CD44v2の発現を免疫組織学的に検討した。免疫染色の発現強度は(-)から(3+)までの4段階評価し、(1+)から(3+)までを発現陽性とした。非癌部上皮(正常粘膜上皮)は、CD44st、CD44v6、CD44v2は普遍的に強陽性を示した。癌部での発現陽性症例はCD44st、CD44v6、CD44v2は、それぞれ89例(100%)、85例(95.5%)、59例(66.3%)であった。CD44vと臨床病理学的因子との相関性の検討では、CD44v6とCD44v2の発現の低下は病理学組織学的分化度の低下と相関した。またCD44v6の発現の低下は、頚部転移率の上昇と相関を示した。頭頚部扁平上皮癌37例の新鮮凍結切除標本を用いての、ELISA法で求めた腫瘍内CD44v6蛋白濃度と臨床病理学的因子との相関性の検討では、免疫染色と同様に、CD44v6蛋白濃度の低下は病理組織学的分化度の低下、頚部転移率の上昇と相関を示した。その他、CD44v6蛋白濃度の低下は腫瘍サイズの増大と相関を認めた。以上の結果より、臨床検体を用いた免疫組織学的検討より、CD44v6発現の低下は頚部転移の予測因子として、また、頭頚部扁平上皮癌の生物学的悪性度の指標となりうることが示唆された。
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