前庭眼反射は本来、三次元空間における空間知覚をサポートするための反射であり、その一つである温度眼振は三次元の眼球運動として分析されるべきである。 精緻な前庭生理学的研究で知られるニューヨーク大において、申請者は共同研究者とともに、半規管遮断手術を受けた十頭のカニクイザルより、手術前後に冷刺激温度眼振を、座位およびこれと直角な四頭位で記録した。この温度眼振記録の生データとその解析プログラムを、インターネットを介して提供を受け、本邦において解析し、最大緩徐相速度および時定数を計測した。その結果、以下のことが明らかになり、学会で報告した。(1)眼振反応の大きさは個体差が大きいが、左右耳・頭位による差は小さかった。また、遮断の組み合わせによる一定の傾向はみられなかった。(2)眼振の方向は刺激耳側および重力方向に依存した。すなわち、サルでは内リンパ対流が温度眼振発現の絶対条件でないこと、および、対流を除いた状況でも重力の関与が重要であることが分かった。 これらの結果より、限局的な有毛細胞and/or神経終末傷害動物による温度眼振の検討が待たれる。動物の扱い易さ、データ採取の非浸襲性のてんから、当初のモルモットを用いた実験計画を変更し、鳩の頭振をVTR3次元分析する方向で、実験装置を組み直し、方法の確立を進めている。
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