研究概要 |
ヒトの声帯が男性ホルモン(A)の標的に成りうるかという問題は^3H標識Aによる形態観察から解決されている。Aが声帯組織の分化及び機能生理等そして癌化及びその生理活性に関与するものかどうかという問題が残り,喉頭癌細胞培養系を用いた結果から,喉頭細胞はA感受性を有することが明らかと思われる。さらに用いた株は10^<-6>Mの濃度でAによりDNAの断片化を伴う細胞死を誘導された。A受容体(AR)mRNA発現が,培養喉頭癌細胞系及び喉頭癌12検体全てに確認され,喉頭組織と男性ホルモンの関与は明らかである。さらに,培養喉頭癌細胞のみ遺伝子変異の存在の可能性が確認され,サーマルシークエンシング法にて全塩基配列の検討を試みた。既にWendy Tillyらにより報告された塩基配列と比較し,エクソンAのCAG繰り返し配列の8個欠損と790番目のGAGからGAAへと塩基変異同義的変異が確認された。このARmRNA及び蛋白発現が細胞死誘導への関与を確証するためオリゴヌクレオチド導入によりA誘導細胞死の抑制の有無を調べた。ARのアミノ酸転写開始部位AUGからの30bp,核酸への結合部位,ヒンジ部位,そして,RNA転写開始部位の4ヶ所に関してアンチセンスオリゴ核酸を作成,一方コントロールとして,CAG繰り返し配列の部位とIL1-βの転写部位のセンス塩基配列を用いた。トランスフェクションはリン酸カルシウム法を用い,A添加後の細胞増殖から,アミノ酸転写開始部位,RNA転写開始部位のアンチセンスオリゴ核酸何れもがA誘導喉頭癌細胞死を明らかに抑制した。このことは喉頭癌細胞株のA誘導細胞死にそのAR転写発現の関与は明らかである。形態的な実験と併せて考えるならば,癌も含め喉頭上皮組織はその発生,機能保持及び生理活性等にAが1つの因子として係わるものと考える。(1998年度CSH研究所cancer&gene学会,ステロイドホルモン学会にて報告)
|