本研究の目的は、HPV-16遺伝子の転写調節領域(LCR)上にはヒトケラチノサイト(HK)分化に特異的な転写制御領域が存在するという仮説を検討することである。この仮説は分化したHKでHPV転写・複製が活発になるという臨床病理学的観察(喉頭乳頭腫など)を基にしているが、昨年度の実績報告書にて報告したように、HPV16LCR-CATプラスミドをneo耐性遺伝子と共にHPV16不死化HKに導入しG418で選択した細胞をヌードマウス皮下に移植し分化させ回収しCAT染色を試みたが再現性がなく実験系の安定が得られていない(再構築上皮の分化勾配に伴ないCAT染色が異なり、上層分化細胞でCAT染色が強くなる事を予想していた)。このためHPV16不死化HKのウイルス転写が培養環境下で分化を誘導することによって影響を受けるか否かを検討し、また同様に培養系におけるHPV16LCR-CATの活性を(1)Fibrolasts、(2)HPV16発現Fibroblasts、(3)正常HK、(4)HPV16不死化HK、にて検討した。現段階では:分化誘導した正常HKとHPV16不死化HKにおけるHPV16LCRのCAT活性の増加、および分化誘導したHPV16不死化HKのウイルス遺伝子転写の増加は観察されず、なぜ分化したHKでHPVの転写・複製が活発になるのかという疑問に対する回答は得られていない。SV40プロモーターで制御されたHPV16転写に対する分化誘導の効果もHPV16LCRとほぼ同様であり(現在再確認中)、HPV転写がHK分化に特異的な動態を示すのはLCR上にある配列とは無関係である可能性も考えられる。また、正常HKよりもHPV16不死化HKでのHPV16LCR-CATの活性が高かったことから、HPV16LCRでコントロールされるHPV転写は、HPV16蛋白発現によって正の影響を受けることが示唆されている。
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