平成11年度末までに、電気刺激による内耳蝸牛外有毛細胞の遅い収縮は、収縮時には細胞の体積が減少する水の動きより起こっており、この水の移動には、ω-コノトキシン感受性カルシウムチャネルを介する細胞外カルシウムイオンの流入にて活性化されるBK型カリウムチャネルよりのカリウムイオンの流出とフロセミド感受性塩素イオンチャネルよりの塩素イオンの流出が各々独立して関与していることを解明した。さらにBK型カリウムチャネルの活性化にカルシウム・カルモデュリンカイネースIIが関与していることを解明し、タイプ1と2A蛋白セリン/スレオニン脱リン酸化酵素の阻害薬であるカリクリンAにより、外有毛細胞の電気刺激による収縮および細胞内塩素イオン濃度の変化が消失することを解明した。この外有毛細胞の収縮に関与するカリウムチャネルの活性化にはオカダ酸感受性の蛋白脱リン酸化が抑制的に関与し、また塩素イオンチャネルの活性化にはカリクリンA感受性の蛋白脱リン酸化が関与していることが示唆された。また一般に蝸牛内有毛細胞は、収縮機能を持たないと考えられてきた。しかし、我々は外有毛細胞に加えたものと同様の矩形波電気刺激を負荷することにより収縮機能が蝸牛内有毛細胞にも存在することを確認した。その収縮は、外有毛細胞と同じように体積減少と細胞内塩素イオン濃度の減少を同期して伴っていることが解明された。実際、内有毛細胞と外有毛細胞の細胞膜やその下部構造は近いという報告は存在している。この内有毛細胞の収縮は、電気刺激の強度と刺激時間との積に対して外有毛細胞と同様に一定の閾値を持つことも解明された。今後、この内有毛細胞の収縮に関与する塩素イオンチャネルの解明を進めることにより各有毛細胞の機能の同位・相違点より聴覚機構を解明していきたい。
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