研究概要 |
BUS/Idrマウスは、当研究所において確立された行動異常ミュータントマウスである。これまでの病理組織学的検索により、このマウスが内耳に著明な退行変性を示すことから聴覚・平衡覚に異常をもつことが示唆されていた。今回、生後5日齢から成獣までの35個体を用いて脳性聴覚応答を調べることにより、このマウスが生涯に亘って聴覚を失っていることを確認した。この病因因子を特定するため、BUSホモ個体雌と野生マウス(Cast)雄との交雑により得られたF2個体を用いて、原因遺伝子(bus)の染色体マッピングを行なった。はじめに、48個体のF2を用いて各染色体上のSSLPマーカーとbusとのリンケージ解析を行なったところ、bus遺伝子が第10染色体上にあることが示唆された。そこで、第10染色体上のSSLPマーカー16種を用いて、さらに詳細なリンケージ解析を行なった。その結果、マーカーとbus遺伝子が次のような順序、遺伝的距離で並んでいることがわかった:D10Mit110-0.1cM-(D10Mit127,D10Mit59)-1.09±0.62cM-bus-0.72±0.51cM-(D10Mit48,D10Mit112,D10Mit258)-0.3cM-D10Mit149-0.3cM-D10Mit111。この座位は、これまでに知られている聴覚障害遺伝子のうち、waltzer(v)の遺伝子位置とほぼ一致しており、busがwalter(v)の対立遺伝子である可能性が強く示唆された。これらの結果をまとめて、現在投稿中である。近年、ヒト非症候群性聴覚障害遺伝子のひとつ(DFNB12)が、第10染色体上に位置していることが報告されており、相当領域がマウス第10染色体に当たることから、そのマウスホモログがwaltzer,Jackson circler,あるいはAmes waltzerであろうと推測されている。ヒトでの聴覚障害遺伝子を明らかにしていくうえで、BUSマウスは有用かつ重要な材料であり、その原因遺伝子解明に向けて研究を継続中である。
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