本年度は前年度に引き続き、アレスチン遺伝子の異常が先天性停止性夜盲のひとつである小口病の原因となっているばかりでなく、進行性夜盲性疾患の網膜色素変性の原因にもなりうることを明らかにすることを目的に遺伝子診断スクリーニングを継続し、遺伝子異常と臨床像の関係について検索を進めた。その結果、小口病と同じアレスチン遺伝子異常(1147delA)変異が常染色体劣性網膜色素変性と考えられる3例に認められた。3例のうち2例には定型的な網膜色素変性が認められ、残る1例は中心型の網膜色素変性に周辺部に金箔様反射を伴った眼底像であった。網膜電図上、3例ともa波とb波の減弱を認めたがその反応は完全には消失しておらず、また30HzフリッカーERGの振幅も減弱しているものの完全には消失していないパターンを共通して示した。また蛍光眼底撮影上、3例とも網膜血管アーケード付近にとくに強い網脈絡膜萎縮所見を認め、変性の最も強く起こる部位が血管アーケード付近であることを示唆していた。しかし、同様の蛍光眼底所見を示した他の網膜色素変性患者数名においてアレスチン遺伝子を検索したところ異常は認められなかったことより、この所見はアレスチン遺伝子異常をもつ網膜色素変性には必ずしも特異的という訳ではなく、単に杆体の傷害が最も強く起こることを示しているにすぎないのではないかと考えられる。いずれにせよ、今回の研究によりアレスチン遺伝子異常による常染色体劣性網膜色素変性の存在が世界で初めて示された。
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