研究概要 |
ラット網膜の形態学的な発生過程を観察した。生直後には、網膜細胞層は2層(神経節細胞と内外顆粒層の未分離層である。内外顆粒層の未分離層が生後6日までの間に分離して、視細胞層も形成されてきた。網膜の分化に関連する因子を検出する目的で、TGF-βスーパーファミリーの受容体の発現のタイミングについて組織化学的に観察した。TGF-βI型受容体、II型受容体、骨形成因子(BMP)IA型受容体、II型受容体、アクチビンIB、II型受容体は生直後〜生後3日の間に発現が確認された。しかし、BMP IB型受容体、アクチビンI型受容体の発現はおくれて、生後3〜6日にみられた。このことからTGF-βスーパーファミリーの因子の作用のうち、TGF-βの作用は生直後より網膜に及んでいるが、BMP、アクチビンの作用の一部は網膜の成熟とともに網膜に及ぶようになる可能性が示唆された。網膜の細胞の成熟にTGF-βスーパーファミリーがどのように作用するかを検討するためTGF-βの網膜芽細胞腫細胞(Y79)対する作用様式を分子生物学的に検討した。網膜芽細胞腫は未分化な網膜細胞で、sodium butylate,cAMPなどで刺激すると、分化が開始される。TGF-βI型受容体、II型受容体の双方の発現していないためTGF-βにY79は反応しない。I型受容体mRNAレベルでは発現していたが、II型受容体は発現が見られなかった。cAMP刺激でTGF-βII型受容体mRNA発現が見られるようになった。TGF-βII型受容体の遺伝子の蛋白質に翻訳される領域には変異が見られなかった。このことから網膜芽細胞のTGF-βに対する不応性は受容体レベルでの異常が関与しうることがわかった。さらに、TGF-βI型受容体、II型受容体遺伝子をY79細胞に導入すると、TGF-βに対する反応性が回復した。網膜未分化細胞の機能におけるTGF-βの重要性を示唆するとともに、その網膜分化の分子メカニズムを検討するモデルとして網膜芽細胞腫細胞Y79が有用であることが分かった。
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