全層角膜移植術によってえられたフックス角膜内皮変性症による水疱性角膜症の11例11眼および内眼手術後に生じた水疱性角膜症の5例5眼の角膜を固定、エポン包埋した後、薄切し、ことに角膜中央部の上皮下組織について光学顕微鏡および透過型電子顕微鏡観察を行った。フックス角膜内皮変性症の角膜を光顕で観察すると上皮とボウマン層の間に新しく形成された組織が観察される。これを電顕観察すると実質細胞により産生されたと思われる線維性の組織がボウマン層の上に、さらに上皮基底細胞下に肥厚化した基底膜と思われる構造がみられる。また、一部に基底膜の重層化も観察された。したがって、本症でみられる上皮下細胞外組織の形成には実質細胞だけでなく、上皮細胞も関与していることがわかった。原発性に角膜内皮が変性してゆくフックス角膜内皮変性症だけでなく、内眼手術に続発する内皮障害による水疱性角膜症の5例中3例にも同様の角膜上皮下組織が観察された。いずれも実質細胞由来と思われる線維性の組織と、肥厚あるいは重層化した基底膜が観察された。5例ともに上皮基底細胞には空胞が目立ち、ボ-マン層に向けてその基底部が突起状に突出した像が観察された。したがって、フックス角膜内皮変性症の水疱性角膜症にみられた角膜上皮下組織は本症に特異的なものではないことがわかった。水疱性角膜症に至った角膜では角膜上皮基底細胞に何らかの負荷が加わり、異常な基底膜を産生するようになる。角膜内皮障害で水疱を形成してくる機序として、この基底膜の異常によりボ-マン層と上皮の接着が不十分であることが考えられる。βig-h3はこの両者の接着に関与している事が推察され、今年度は各種の病態において本タンパクがどのように関っているのかを免疫組織化学的に検討を加えてゆきたい。
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