研究課題/領域番号 |
09671796
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柏井 聡 京都大学, 医学研究科, 講師 (50194717)
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研究分担者 |
本田 孔士 京都大学, 医学研究科, 教授 (90026930)
万代 道子 京都大学, 医学研究科, 助手 (80263086)
高橋 政代 京都大学, 医学研究科, 助手 (80252443)
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キーワード | 虚血性網膜細胞死 / アポトーシス / TUNE陽性(DNA断片化)細胞 / bax遺伝子 / bal-2遺伝子 |
研究概要 |
Sprague-Dawleyラットの眼内圧を130mmHgに上げて45分間負荷した後、6、24、48、96、および168時間後のTUNEL陽性(DNA断片化)細胞を計測すると、虚血後6時間後から網膜神経節細胞層(GCL)および網膜内顆粒層(INL)に認めれるようになり、虚血後24時間で最大、虚血後48時間から96時間後に急速に減少した。逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法からbaxmRNAは虚血後6時間から急速に増加し24時間後に最大となり、その後徐々に減少し168時間後に虚血前の基準量レベルになった。一方、bcl-2 mRNAは虚血後168時間までの観察期間において有為の変動はなかった。虚血24時間後の網膜においてGCLおよびINLにおいてbaxが誘導されることを免疫組織学的に確認した。baxのアンチセンスのオリゴデオキシヌクレオチッドを硝子体内に注入し24時間後に網膜に45分間の虚血負荷し24時間後に摘出し、虚血によって誘導されるbaxの抑制を確認するとともにTUNEL染色し陽性細胞が3nmol〜10nmolと用量依存性にアポトーシスが抑制された。これより虚血負荷によってbax遺伝子の発現が増加し、GCLおよびINLにおいてアポトーシスを駆動し虚血性細胞死に関与していることがわかった。 一方、アポトーシス抑制遺伝子bc1-2の虚血性網膜神経細胞死に対する働きをみる目的で、網膜に一過性虚血を加えた後に生じる組織学的障害をbcl-2を過剰発現させたトランスジェニックマウス(NSE73a/ab)とその野生型同胞マウス(C57BL/6)で比較検討した。最初にbcl-2過剰発現マウスと野生型の正常組織構造を比較した。bcl-2トランスジェニックマウスのGCLの細胞数は野生型同胞マウスの約60%多かった。トランスジェニックマウスの内網状層(IPL)の厚みは43.8±6.7μm、野生型の33.7±1.8μmと比較し有為に肥厚していた。これよりbcl-2の過剰発現によって正常発育過程におけるアポトーシスが抑制されるため、内層のニューロン数が多くなったものと考えられた。続いて、実験動物の眼内圧を130mmHgに45分間雑持して網膜に虚血を負荷し、再灌流後7日目に網膜を取り出し、GCLの細胞数、およびIPL、INL、外顆粒層(ONL)の厚みを計測した。個体差を考慮して虚血を負荷した網膜の各実測値は、虚血を負荷していない反対側眼のそれを基準にした%コントロール値にして比較検討した。虚血負荷によって野生型マウスではGCL数が64.6±7.5%コントロールに減少したが、トランスジェニックマウスでは81.9±5.6%コントロールに保持され、IPLおよびINLの厚みも野生型では42.3±0.6および71.2±0.8%コントロールにそれぞれ減少したが、トランスジェニックマウスでは82.4±19.6および95.3±11.3%コントロールにそれぞれ保持された。虚血負荷後ONLの厚みは野生型は109.3±5.8、トランスジェニックは99.9±9.7%コントロールと両者に有意差はなかった。従って、bcl-2が過剰に発現した網膜ニューロンは虚血による細胞死を100%抑制することはできないものの、野生型の虚血による細胞減少数と比較して、有為に虚血に対して抵抗性を持つことわかった。以上の結果より、アポトーシス抑制遺伝子bcl-2を過剰発現させると虚血による網膜内層ニューロンの細胞死を減少させる効果をもつことがわかった。
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