前房中の外来抗原を注入すると、その抗原に対する抗原特異的遅延型過敏反応(DTH)が抑制される。この現象はanterior chamber-associated immune deviation (ACAID)として知られている。本研究では、まず、このACAIDを利用しての角膜移植後の拒絶反応の抑制が可能かどうかを検討した。方法はB10.D2マウスの脾細胞をBALB/cマウスの前房中に注入した後、B10.D2マウスの脾細胞を皮下に注入しDTHが抑制されているかを検討した。また、B10.D2マウスの角膜を用いて角膜上皮形成術(keratoepithelioplasty:KEP)を施行し、その拒絶反応が抑制されうるかを検討した。結果は、DTHおよび拒絶反応ともに抑制されており、脾細胞を用いてACAIDを誘導することによってKEPにおける上皮型拒絶反応を抑制しうることを見出した。 一方、加齢性黄斑変性症に対する治療方法の1つとして網膜色素上皮細胞移植術がある。この場合もやはり拒絶反応の抑制が問題になってくる。もし、網膜色素上皮細胞自体がACAIDを誘導することができれば、この治療方法の臨床応用が現実味を帯びてくる。そこでまず我々は、網膜色素上皮細胞がACAID誘導に重要な役割を果たしているTGF-βの産性能を有していることを確認した。次いで、マウスおよびラットの網膜色素上皮細胞を前房中に注入しACAIDの導入を試みたが、残念ながらACAIDは誘導されなかった。これらの結果は網膜色素上皮細胞が抗原提示細胞になりえないことを示唆した。
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