ヒルシュスプルング病の責任遺伝子の一つであるRET遺伝子、ならびに病変腸管の構成的収縮という本疾患の本質的病態に関わることが考えられるneuronal nitric oxide synthas(NOS)遺伝子について、その発現を検討した。 1:7例のヒルシュスプルング病患者から、根治術時に腸管を切除して、ganglionic segment、hypoganglionic segment、ならびにaganglionic segmentから、各々の検体を収集した。各segmentの腸管よりtotal RNAを抽出し、さらにcDNAを得、RT-PCR法を用いて、RET、あるいはNOS遺伝子の発現をmRNAのレベルで検討した。また発現の定量的比較を行うため、competitive PCR法を併用した。 2:RET遺伝子については、aganglionic segmentでganglionic segmentに比し、その発現は低下していた。hypoganglionic segmentに於ける発現は前二者の中間であった。2例の定量的比較を行った症例では、aganglionic segmentのganglionic segmentに対する発現の比は1/500であり、aganglionic segmentに於けるRET遺伝子の発現は非常に低下していることが確かめられた。hypoganglionic segmentのganglionic segmentに対する比は、1例で1/5、他の1例で1/10であった。 RET遺伝子の発現は正常な腸管神経系の確立に重要な役割を担っており、我々の得た結果は、ヒルシュスプルング病に於けるvagal neural crest由来細胞の発育分化傷害をを示唆するものと考えられる。 3:NOS遺伝子についてもRET遺伝子と同様に、aganglionic segmentでganglionic segmentに比しその発現は低下していた。定量的比較を行った2症例では、aganglionic segmentのganglionic segmentに対する発現の比は1/50、ならびに1/100であった。この結果は、病変腸管でのNOS遺伝子発現低下が腸管平滑筋弛緩をつかさどるnitric oxideの産生低下につながり、病変腸管の構成的収縮をきたすことを示唆した。
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