A) ヒルシュスプルング病の責任遺伝子の一つであるRET遺伝子、ならびに病変腸管の構成的収縮という本疾患の本質的病態に関わることが考えられるneuronal nitric oxide synthas(NOS)遺伝子について、competitiveRT-PCR法を用いてその発現を検討し、以下の結果を得た。 1:RET遺伝子については、aganglionic segmentでganglionic segmentに比し、その発現は低下していた。hypoganglionic segmentに於ける発現は前二者の中間であった。2例の定量的比較を行った症例では、aganglionic segmentのganglionic segmentに対する発現の比は1/500であり、aganglionic segmentに於けるRET遺伝子の発現は非常に低下していることが確かめられた。hypoganglionic segmentのganglionic segmentに対する比は、1例で1/5、他の1例で1/10であった。 RET遺伝子の発現は正常な腸管神経系の確立に重要な役割を担っており、我々の得た結果は、ヒルシュスプルング病に於けるvagal neural crest由来細胞の発育分化傷害を示唆するものと考えられる。 2:NOS遺伝子についてもRET遺伝子と同様に、aganglionic segmentでganglionic segmentに比しその発現は低下していた。定量的比較を行った2症例では、aganglionic segmentのganglionic segmentに対する発現の比は1/50、ならびに1/100であった。この結果は、病変腸管でのNOS遺伝子発現低下が腸管平滑筋弛緩をつかさどるnitric oxideの産生低下につながり、病変腸管の構成的収縮をきたすことを示唆した。 B)1998年ヒルシュスプルング病の責任遺伝子の可能性が高いとして報告されたSox10遺伝子について、PCR-SSCP法を用いて50例の当該症例において遺伝子異常の検索を行い、以下の結果を得た。 1:6例においてexon3 codon6に、GAT->GCAの変化を、他の2例においてintron3に、C->Gの変化を、またexon4 codon309に、浸透度の高いCAT->CACの変化を観察した。しかし、いずれの変化もアミノ酸変化をきたさないものであり、ヒルシュスプルング病の病因に関与することは、あったとしても極めて稀であると考えられた。
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