1. 本実験では胎児の精巣下降における神経伝達物質としてのカルチトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の役割と停留精巣の治療薬としての可能性について検討することを目的とした。 2. カルチトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が神経伝達物質として陰部大腿神経より分泌され鼠径部から陰嚢底部までの精巣下降を誘導するというHutsonらの仮説に基づき、我々はまず陰部大腿神経を切断したラットを用いて停留精巣モデルの作成を試みた。 3. 停留精巣モデルの作成法: 1) Wistar King Aの正常新生仔ラットをエーテル麻酔下に眠らせ、マイクロ用顕微鏡鏡下に臍下部に横切開を加えて開腹し、片側の陰部大腿神経を切断した。 2) 生後90〜120日でラットをエーテル麻酔下に眠らせ、精巣の位置を確認した。 3) その結果、90〜120生日で34頭中26頭(76.5%)の手術側に停留精巣がみられた。26個の停留精巣のうち4個は内鼠径輪近くに見られ、6個は鼠径管内、16個が陰嚢のすぐ上部であった。 4) これらの精巣はいずれも陰部大腿神経切断による何らかの影響のため生後に下降が阻止されたものと考えられたが、その中で特に陰部大腿神経からCGRPの分泌が抑制されたことが最も大きな要因であると推測された。 4. 上記の結果に基づき次に新生仔ラットの陰部大腿神経を切断した後、同側の陰嚢皮下にCGRP20μgを10-15日間注入した。コントロールにはCGRPの溶解液のみを注入したがコントロールに比べCGRP注入ラットでは有意に停留精巣の発生は抑制された。 5. 以上の結果より陰部大腿神経の神経伝達物質であるCGRPは下降不全を示す幼弱期の停留精巣患児の治療に応用可能な治療法の1つになりうると思われる。
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