ヒルシュスプルング病は代表的な小児外科疾患で、新生児期から消化管の運動機能障害を来たし、排便障害から重篤な腸炎や敗血症を合併する先天性疾患である。発生因として胎生期にneural crest cellが背側神経管に発生し、増殖、移動、着床、分化して腸管壁内神経節細胞となる過程に何らかの異常があると考えられ、近年、遺伝子解析などヒルシュスプルング病の病因に関する研究がなされているが、その発症機序はいまだ明らかにされていない。そこで本研究はヒルシュスプルング病腸管においてbNOS、eNOSおよびiNOSの局在、エンドセリンおよびエンドセリン受容体の有無および局在を免疫組織学的に検討し、放射線リガンドを用いた受容体結合実験でその結合能を検討した。また患児の末梢血リンパ球を検体としてエンドセリン受容体の遺伝子解析を行った。 ヒルシュスプルング病腸管では無神経節部、正常神経節部のいずれにおいてもeNOSは血管内皮、iNOSは粘膜および粘膜下層、bNOSは粘膜、粘膜下層および筋間神経叢に陽性で対照腸管と差異はなかった。bNOSは無神経節部の筋間外来神経束に陽性所見を認めた。エンドセリン3、エンドセリン受容体はヒルシュスプルング病腸管、対照腸管ともに内輪、外縦の筋層、筋間神経叢、粘膜筋板、粘膜下神経叢で陽性であった。エンドセリン受容体結合能の検討では、無神経節部の外来神経束に沿ってエンドセリンB受容体への強い集積が確認された。エンドセリンA受容体は粘膜固有層に軽度認められるのみであった。PCR-SSCP法によるエンドセリンB受容体遺伝子変異は4領域のExonに関して認めなかった。
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