本研究の目的は、ヒト有細胞セメント質において固有線維がシャーピー線維をどのようにして埋め込んでゆくかついて明らかにすることである。この目的のため、抜去直後の下顎小臼歯を光顕、透過型および走査型電顕により観察した。走査型電顕では細胞以外の成分をすべて除去するKOH-コラゲナーゼ法を用いた。 シャーピー線維を固有線維が取り囲むという構造がはっきり認識される部位では、セメント芽細胞は翼状の突起により主線維を取り囲んでおり、それらの突起のセメント質側はセメント質表面に平行な指状突起を形成していた。シャーピー線維がほとんど、あるいは全く無い部位では、セメント芽細胞は翼状突起を持たず、細胞体のセメント質側にセメント質と平行な指状突起を形成していた。以上の観察結果から、「指状突起の形成部位の違いからセメント芽細胞は二種類に分けられる。ひとつは翼状突起表面に指状突起を持つセメント芽細胞であり、これらが主線維の配列を維持しつつ、固有線維を指状突起から分泌し主線維を埋め込んでゆく。翼状突起を持たず、細胞体から直接に指状突起を出すセメント芽細胞は、もっぱらセメント質の厚さを調整するために指状突起から固有線維を分泌する。」ことが示唆された。 ラット無細胞セメント質では、セメント質形成細胞は主線維を囲む翼状突起、および翼状突起のセメント質側からセメント質に向かう指状突起を有していた。このような構造が、固有線維を全く含まない無細胞セメント質を形成すると考えられた。
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