(研究目的)歯胚上皮の分化過程における細胞質シアリダーゼの役割を検討するため、本酵素量と細胞内シアロ複合糖質量との間の相関性を明らかにする(研究期間 : 平成9年〜12年)。初年度は、シアロ複合糖質の量が細胞表面や細胞外に比べ細胞内では極めて少ないため、至適なレクチンの選択とレクチン組織化学における検出感度の増大法を光学顕微鏡で検討した。あわせて、本酵素の発現量を免疫および遺伝子組織化学的に検討した。 (研究結果)シアロ複合糖質に特異性の高い3種のレクチン(蛍光標識)でラット歯胚(第一臼歯、胎生16〜20日)を染色した。切片には、化学固定した試料のパラフィンおよび凍結切片を使用した。レクチン3種のうちSambucus nigraが、歯胚上皮の分化に伴う染色性の変化を最も良く示した。検出感度の増大は、ビオチン標識レクチンに金粒子標識アビジンを結合させ、金粒子をさらに銀増感することで達成できた。この方法は、複合糖質の増減を計量し、客観的に示す点でも他の方法に比べて優れていた。しかし、光学顕微鏡レベルの観察は、細胞表面や細胞外の染色性の高さに幻惑をされるため細胞内の染色性の把握に正確さを欠いた。免疫および遺伝子組織化学の結果も、金粒子標識法が酵素発現量の変動を把握するのに蛍光法や発色法よりも適することが示された。 (考察、結論)組織化学において染色強度の数値化は、染色性の変化を客観的に示すために必須である。その目的には観察対象の物質に金粒子を標識して対応しているが、検出感度に難点がある。本研究目的には、金粒子標識法とその感度を増やす方法として銀増感が有効であると判明した。また、本研究課題に適したレクチンがSambucus nigraであることも示された。初年度の検討課題を達成し、次年度以降に計画している電子顕微鏡レベルでの研究に貴重な足がかりを得た。
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