研究概要 |
細胞増殖と細胞死(アポトーシス)の制御は初期発生から個々の器官形成などの多細胞生物の生命現象において中心的役割を果たし,その破綻は発生異常や奇形を引き起こす。この細胞増殖を細胞死は,形態形成因子とよばれる蛋白因子によって制御されており,その一つとしてTGFβファミリーメンバーであるアクチビンが知られている。我々は,アクチビン高感受性マウスB細胞株を用いて,アクチビンの細胞増殖抑制とアポトーシス誘導機構を解析してきた。そして,アクチビンはサイクリン依存性キナーゼ阻害因子であるp21/CIPl/WAFlの発現誘導によりCDK4による網膜芽細胞腫蛋白質(Rb)のリン酸化を抑制し,その結果生じた低リン酸化型Rbによって細胞周期G1期停止を引き起こすこと,また,このG1期停止に引き続いてアポトーシス誘導がみられるが,これはBcl-2発現により抑制されることを報告した。さらに本研究によって平成9年度中に次のことを明らかにした。 1)アクチビンI型レセプターとして,ActR IとActR IBの2つの存在が知られているが,我々はこれらの強発現系を作成することにより、アクチビンの増殖抑制とアポトーシス誘導は,ActR IBを介すること,また,興味深いことに,ActR IはActR IBによるこれらの効果を抑制することを明らかにした。現在この抑制機構について詳細に解析中である。2)アクチビンのERKおよびp38MAPキナーゼ系におよぼす効果を検討したが,アクチビンは,細胞内でこれらの活性に影響を及ぼさなかった。また,TAB1 C末端欠損変異(1-418)は,TGFβレセプターの下流に存在するTAK1 MAPKKKを阻害するが,この変異型TAB1(1-418)の発現導入によっても,アクチビンによるG1期停止とアポトーシス誘導には変化がなかった。 以上により、アクチビンによる増殖抑制とアポトーシスの誘導はともに,ActR 1Bを介して,また,MAPキナーゼ系とは独立してシグナル伝達が引き起こされると考えられる。現在,Smadファミリーの関与について検討中である。
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