研究代表者はこれまでに歯髄体液調整機構を主テーマに種々の研究報告を行ってきた。今回の研究期間においては、このうち歯髄内の血流調整を支配する無髄神経線維と歯髄内血管系との関連性を免疫組織化学的手法と酵素消化法を用いて明らかにするつもりである。このうち歯髄を水酸化カリウムを含む酵素で処理後に走査電顕で観察すると、歯髄内に進入した無髄神経線維は動脈あるいは静脈壁を走行し至るところで、側枝を派出していた。この枝はそれぞれ血管外膜から中膜に入り込み動脈の場合平滑筋と内皮細胞を静脈の場合周細胞と内皮細胞を直接支配していた。毛細血管の場合、数多くの神経線維の終末枝が周細胞壁に付着していた。この結果は現在、米国解剖学会機関誌であるAnatomical Record誌に投稿中である。一方免疫組織化学法では1次抗体に種々の血管作動性ペプチドに対する抗体およびニューロンマーカーであるPGP9.5を用いた。それによると、歯髄内の無髄神経線維は至ところにいわゆるヴァリコティー構造を有していた。この構造を電子顕微鏡で観察するとsynaptic vesiclesを豊富に含み、その放出像を思わせる開口部も多数観察された。これらの結果は歯髄内無髄神経線維が関接的にも血流調整を行っていることを示唆するものであろう。この結果は今年度発行のEuropen Jorunal of Oral Sciences誌に掲載予定である。以上のことから歯髄内の血管系は無髄神経線維により間接的にもまた、直接的にも支配されていることが明らかになった。このことは歯髄内の血流が(より広く考えると歯髄内の体液が)これらの無髄神経線維により非常に微少な範囲において調節されていることを物語るものであろう。
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