研究概要 |
我々は、これまでにS.mutansを含む齲蝕細菌(5菌種)のデキストラナーゼが多型を示すことを見出してきた。デキストラナーゼ分子は、精製過程でプロテアーゼの作用により、除々に低分子化するため、各分子サイズの酵素を精製するのは容易ではなかった。そこで、齲蝕細菌のデキストラナーゼ(dex)遺伝子の塩基配列を決定し、そこから得られるアミノ酸一次構造を比較することで、分子多型に影響を与える領域を推測し、それをクローン化dex遺伝子を用いた遺伝子工学的アプローチにより証明することを試みている。 本年度は、齲蝕細菌の一つであるStreptococcus downeiのdex遺伝子の全塩基配列を決定した。その結果、S.downei dexの読み枠は3,831pbであり、その遺伝子がコードするデキストラナーゼ(Dex)は1,297アミノ酸残基からなっており、その分子量は139,743、等電点は4.48であることが明らかになった。ここで得られたS.downei Dexのアミノ酸配列を既に報告されているS.mutansとS.sobrinusのDexのそれと比較すると、その相同性は各Dex分子内の約540アミノ酸残基に集中しており、その相同性はそれぞれ62%と90%であった。この領域はS.mutansではDex分子の中央に位置し、S.sobrinusとS.downeiでは中央よりややN末端側に位置していることが明らかになった。これらの結果より、この相同領域(上記の540アミノ酸残基)内にはDexの活性中心や基質結合部位の存在が示唆された。このことから、Dexの低分子化による多型は、相同領域以外のN末端およびC末端側領域がプロテアーゼによって消化されるためではないかと推測した。現在、このN末端およびC末端領域の欠損変異株を作成し、デキストラナーゼ分子多型に与える影響について検討中である。
|