研究概要 |
齲蝕原因菌(5菌種)はいずれも菌体外デキストラナーゼを産生する。このデキストラナーゼの分子量は菌種により異なるが、いずれの菌種からも活性型のデキストラナーゼ分子多型が検出されている。そこでこの酵素多型の分子機構を解明する目的で、各菌種のデキストラナーゼのアミノ酸一次構造を比較し、分子多型に影響を与える領域の解明を試みた。現在までに3菌種(S.mutans,S.sobrinus,S.salivarius)のデキストラナーゼ遺伝子の解析が報告されているが、私たちは、これに加えてS.downelのデキストラナーゼ遺伝子の全塩基配列を決定し、これら4菌種のデキストラナーゼを比較した。その結果、いずれのデキストラナーゼもその分子内部に高い相同性を有する保存領域とその両端(CおよびN末端)の相同性の低い可変領域からなっていることを明らかにした。保存領域はどの菌種でも約540アミノ酸残基からなっており、その両端の可変領域は菌種によりその長さが異なることが明らかになった。これらの結果より、この保存領域が酵素活性に必須であり、この領域内における活性中心や基質結合部位の存在が示唆された。さらにこの結果は、S.cricetusおよびS.rattusのデキストラナーゼ分子内にもまた約540アミノ酸残基の保存領域が存在していることを明らかにしたことにより示唆された。さらにデキストラナーゼの分子多型にはプロテアーゼが関与しているという我々のこれまでの結果を考えあわせると、デキストラナーゼの分子多型は、可変領域のプロテアーゼ分解によるものと推測した。次に、この結果を基にS.mutansのデキストラナーゼ分子のN末端およびC末端領域の欠損変異株をサブクローニングおよびPCRを用いて作成し、酵素活性への影響を調べた結果、酵素活性には保存領域の存在が必須で、C末端側の可変領域は活性には無関係であることが明らかになった。現在これらの変異株におけるデキストラナーゼ分子の多型パターンについて解析中である。
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