Stereptococcus mutansのデキストラナーゼ(Dex)多型の分子機構の解明を遺伝子学的アプローチにより行った。まず初めに、齲蝕原性細菌のDex分子に共通の特徴を見い出すために、S.downelのデキストラナーゼ遺伝子(dex)の全塩基配列を決定し、S.mutansおよびS.subrinusとの塩基配列および推定アミノ酸配列の相同性を比較した。その結果、いずれの菌種のDexも分子中央に相同性の高い保存領域(約540アミノ酸残基)とその両端の相同性の低い可変領域からなっていることが明らかになった。この3菌種のDexはいずれも活性を有するDex多型を示すことが活性染色パターンから明らかであるため、保存領域がDex活性に必須であり、多型形成にはN末端およびC末端側の可変領域が関与しているものと推測した。この推測をもとに、S.mutansのdex遺伝子操作によりDex分子のN末端及びC末端領域の欠損変異体を作成し、Dexの多型と活性に与える影響を調べた。Dex欠損変異体はPCR増幅により作成し、大腸菌内で発現させた変異体の多型形成と活性の有無は、タンパク染色および活性染色により判定した。その上、この変異体はいずれもDex活性を保持していた。また、このC末端変異が保存領域内部におよんだ変異体では多型は形成されず、酵素活性を消失していた。一方、活性を有する最小分子量のC末端変異体のN末端側の可変領域で作成したN末端欠損変異体では作成したいずれの変異体も多型および酵素活性を示さなかった。これらの結果から、Dexの多型形成には保存領域のC末端側に位置する可変領域が関与していることが明らかになった。また、Dexの多型形成による低分子化と酵素活性の関係から、この保存領域内にはDexの活性中心や基質結合部位などの触媒部位の存在が示唆された。
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