黒色色素産生性グラム陰性偏性嫌気性桿菌Porphyromonas endodontalis (P.e.)は根尖性歯周炎に関連していると考えられている。申請者らが臨床分離したP.e.の自然突然変異株KSEW01は、ベージュ色の集落を形成し、抗生物質vancomycin(VCM)に対して耐性を示す。そこで、この株を利用してP.e.のVCM耐性に関与する菌体成分を明らかにする。また、部位特異的変異株を作製し、同定された成分の機能を実験的に検討することを目指した。その手始めとして、KSEW01をVCMの存在下および非存在下で培養し、その菌体成分に差があるか否かを2次元電気泳動法を用いて調べたところ、VCM(5μg/ml)を添加した液体培地で嫌気培養したKSEW01の全菌体成分には、等電点〜5.2、分子量〜50kDa付近に、VCM非存在下の菌体成分には存在しない明瞭なスポットを見出した。しかし、再現性に問題があり、結局N末端のアミノ酸配列を決定できなかった。また、VCM耐性にかかわる遺伝子をクローニングするため、P.gingivalis(P.g.)で開発されたtransposon(Tn4351)mutagenesis法をP.e.に応用してVCM耐性変異株を作製・分離することを種々の条件下で試みたが変異株は分離できなかった。そこで、KSEW01の親株KSE105、P.e.標準株ATCC35406、さらにP.g.標準株ATCC33277から、VCM耐性変異株をVCM含有培地上で単離することを試み、46株を得た。それら全株のVCMに対する最小発育阻止濃度を測定したところ、KSEW01に匹敵する程耐性(200μg/ml)な株を得ることができた。また、これらの株は黒色色素を産生しておりVCM感受性と色素産生能とはカップルしていないことが判明した。今後は、得られた変異株と親株とで菌体成分を比較して、VCM耐性に関与する成分を明らかにしていきたいと考えている。
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