本研究では、哺乳動物細胞におけるアポトーシス制御タンパクとして注目されているカスペースファミリーメンバーのcaspase-1とcaspase-3が、A.actinomycetemcomitans感染マクロファージにおけるアポトーシス誘導にどのような影響をおよぼすかについて検討を加えた。初年度の研究で、感染マクロファージのアポトーシス誘導にはこれらのシステインプロテアーゼが重要な役割を果たしている可能性を示唆する結果が得られた。そこで、次年度は、それぞれの酵素の特異的阻害剤であるcaspase-1阻害剤Z-VAD-FMKとcaspase-3阻害剤DEVD-FMKを用いて、感染マクロファージの致死活性の変化を調べた。感染させたJ774.1細胞の培養系にZ-VAD-FMKおよびDEVD-FMKを添加すると、感染細胞のアポトーシス発現が著しく抑制されることが明らかとなった。一方、A.actinomycetemcomitansを感染させるとIL-1βの産生の亢進が認められたが、Z-VAD-FMKの添加によりその産生量は著しく減少した。このことから、感染マクロファージの細胞内のcaspase-1はアポトーシス発現およびIL-1βの産生に深く関っていることが考えられた。さらに、感染マクロファージがら産生されるIL-1βは歯周炎の進展に重要な役割を果たしていることが示唆された。次に、感染細胞内のcaspase-3の酵素活性および細胞内のタンパクの変化を調べた。感染マクロファージでは、caspase-3の酵素活性の亢進が認められたが、DEVD-FMKを感染細胞の培養系に添加することにより細胞内のcaspase-3の酵素活性は著しく減少した。さらに、感染マクロファージでは、細胞内タンパクRbがcaspase-3に特異的な部位で切断されていたが、DEVD-FMKを添加することでこの切断は完全に阻害された。以上の結果から、A.actinomycetemcomitansを感染させたマクロファージに発現されるアポトーシスでは、細胞内のcaspase-1とcaspase-3が中心的な役割を果たしていることが強く示唆された。
|