実験にはCB57BL系マウス(生後4〜8週)を用いた、エーテル麻酔下で開頭し乳頭体-上丘間で徐脳した後に、上半身を分離して95%O_2-5%CO_2で飽和した4℃の人工脳脊髄液中に浸し、下行大動脈からカテーテルを挿入して、dextran2.5%を含む人工脳脊髄液を潅流(内部潅流)した。小脳を除去して第四脳室低を露出し、顎二腹筋前腹および咬筋深部に筋電図記録用にワイヤー電極を挿入した。その後、標本を人工脳脊髄液で潅流(外部潅流)した記録槽に移し、28〜30℃までゆっくりと復温した。背側面より刺入した金属微少電極によって脳幹正中腹側部(錐体路およびその周囲)を連続電気刺激(20〜40Hz)すると、咬筋および顎二腹筋に2〜5Hzの相反性のリズム活動が誘発された(同部位の単発刺激では顎二腹筋に5〜8ミリ秒の短潜時の応答がみられた)。これに対して、興奮性アミノ酸の非特異的桔抗物質であるkynurenic acid(50〜100μM)を記録槽中に投与すると、同部位を連続電気刺激しても顎二腹筋にリズム活動は誘発されなかった。一方、記録槽中にNMDAを投与しても顎二腹筋および咬筋にリズミカルな活動は誘発されなかった。以上のことから、本標本で錐体路連続電気刺激時に顎二腹筋に観察されるリズム活動の誘発には、(1)興奮性アミノ酸、特にnon-NMDA型受容体が重要な役割を演じており、(2)NMDA型受容体はリズム形成に必須ではないが、そのリズム活動の修飾に一定の役割を演じていることが示唆された。
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