従来、軟骨細胞に関する研究は、主に動物組織から分離される軟骨細胞初代培養系を用いて解析されてきた。しかし、このような分化成熟した細胞を用いた初代培養系では、軟骨細胞の分化現象を明らかにすることが原理的に困難であった。また、初代培養軟骨細胞は、分化機能を喪失するために継代培養することが出来ない。そこで、軟骨の分化現象を再現するin vitro培養系を、マウスEC由来クローン化細胞株ATDC5を用いて構築した。本培養系は、軟骨前駆細胞からの軟骨分化誘導を再現するのみならず、増殖後、肥大化・石灰化といった軟骨後期分化をも忠実に再現することを明らかにした。 次いで、軟骨分化誘導したATDC5細胞ならびにマウス胎仔cDNAを用いて、マウスコンドロモジュリン-I前駆体cDNAをクローニングした。塩基配列の決定により、完全長マウスChM-I cDNA(1449bp)は334アミノ酸残基からなるChM-I前駆体をコードしてることが判明した。膜貫通領域を含むCh-SP部分は、マウスvs.ヒトで90%の相同性を示した。プロセシングシグナルに続く成熟ChM-I部分は、ヒトと同じく120アミノ酸で構成されていた。mature ChM-I部分の相同性は、マウスvs.ヒトで86%であった。種差によるアミノ酸配列の違いは糖鎖修飾をうけるN末端40残基の領域に集中していたが、N結合型糖鎖付加部位Asn^<29>は保存されていた。これに対して、Phe^<42>からC末端のVal^<120>までの約80残基の領域はIle^<116>→Val^<116>の置換以外は完全に一致していた。 ChM-ImRNAは軟骨分化依存的に発現誘導され、後期分化の進展と共に消失した。ATDC5細胞培養系における発現分布は、軟骨結節領域に限局していた。マウス胎仔では胎生11日になると脳底部に初めて軟骨が形成されるが、これと一致してChM-Iの特異的発現を認めた。胎生14日では脊椎などの軟骨性骨原基に特異的な発現パターンを示した。さらに、胎生16日では肥大化/石灰化軟骨部位での特異的な発現消失を認めた。このような発現パターンは、ChM-IのAngioinhibinとしての役割を強く示唆していた。
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