研究概要 |
硬組織で発現し、アスパラギン酸連続配列を有するマトリックスタンパク質の「構造と機能」を順次解析する目的で、まずウシトロンボスポンジン1(TSP1)に関する研究に着手し、以下の結果を得た。 1)仔ウシ象牙芽細胞cDNAライブラリーから、5xAspの配列を含む合成オリゴヌクレオチドを用いてウシTSP1 cDNAをクローニングし、その一次構造(1170アミノ酸残基)を決定した。ヒトTSP1とは、96,6%同一で、99.9%の相同性があり、マウスTSP1とは同様に、それぞれ93.2%、99.4%であった。 2)歯・歯内・歯周組織の口腔領域では、象牙芽細胞でのみ6.0と3.8kbのTSP1 mRNAの発現が認められ、TSP1の主要産生細胞であることが判明した。免疫組織化学的検索により、象牙前質に高濃度で局在することが示されたことより、TSP1は象牙芽細胞で合成され象牙前質層に分泌されることがわかった。また、類骨や骨膜にも高濃度存在することから、石灰化領域と非石灰化領域の界面での機能が注目された。 3)アンチセンス法により、TSP1の合成量を抑制するとMC3T3-E1細胞によるマトリックス石灰化が促進(石灰化ノジュール数の増加)されることから、石灰化反応の抑止分子として機能することが推察された。 4)アンチセンス・オリゴデオキシヌクレオチド(S-ODNs)処理細胞では、マトリックスの肥厚、コラーゲン束の増生、細胞表面突起の増加、小胞体やリソゾームのような細胞内小器官の発達が認められた。 5)精製した外因性TSP1をMC3T3-E1細胞の培地に添加すると、極めて低濃度でマトリックスの石灰化が抑制された。 6)pBK-CMV-mTSP1というTSP1発現ベクターを作製し、MC3T3-E1細胞にトランスフェクションして、安定発現株を分離した。TSP1の過剰発現株は、発現量にほぼ比例してマトリックス石灰化の抑制が認められた。ただし、TSP1の構成的発現そのものが、石灰化反応に対して抑制的に働く可能性もある。 7)TSP1の機能ドメインとして、少なくとも 細胞表面レセプターとの結合部位と三量体形成に必要なシステインを含む領域は必要であることがわかった。 以上の結果より、高濃度のTSP1は石灰化のネガティブ制御因子として機能し、歯髄など硬組織に隣接する軟組織に不必要に石灰化が進まないよう防御している可能性が示唆された。
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