我々はこれまでの研究において細胞内アスパラギン酸プロテアーゼであるカテプシンEが反応性ミクログリアにおいて成熟型酵素として発現が増大することを見いだした。さらに、初代培養ミクログリアを用いた研究により、カテプシンEはミクログリアにおいてプロ型酵素として生合成された後、エンドソームにおいて自己触媒的に成熟型酵素に変換することを明らかにしてきた。このことからカテプシンEの誘導機構ならびに機能を解明することは、ミクログリアの活性化に伴う機能の多様化のプロセスを理解するうえで非常に重要と考えられる。そこで今年度の研究は新生仔ラット脳より分離した初代培養ミクログリアを用い、ミクログリアを活性化することが知られているLPS/IFN一γ刺激によるカテプシンEの動態を明らかにすることを目的として行った。さらにアスパラギン酸プロテアーゼ阻害剤であるペプスタチンAのミクログリアに対する影響を検討した。 1.LPS/IFN-γで刺激するとミクログリは扁平で大きな細胞への形態変化が認められ、オプニン化したザイモサンの取り込み能は2倍程度増大した。 2.コントロールならびにLPS/IFN-γ刺激したミクログリアの可溶性画分におけるアスパラギン酸プロテアーゼの総酵素活性を測定した結果、コントロールでは11.7+3.7U/mgであるのに対してLPS/IFN-γ刺激したミクログリアでは5.4+2.2U/mgであった。 3.次に、SDS-ゲル電気泳動後イムノブロット法によりカテプシンEならびにカテプシンDの分子型ならびにタンパク量を調べた。その結果、カテプシンEはいずれの細胞においても還元条件下で42kDaの成熟型分子として認められたが、タンパク量はLPS/IFN-γ刺激した細胞ではコントロールの約60%にまで減少していた。一方、カテプシンDのタンパク量には有意な変化は見られなかった。 4.ミクログリアをペプスタチンA(10-30μM)で処置すると可逆的に細長い(rod-shaped)細胞への形態変化が見られた。さらに、ペプスタチンAにはミクログリアに対する細胞増殖作用ならびにオプニン化したザイモサン刺激によるルミノール反応に対するプライミング効果が認められた。 以上の結果、ミクログリアのカテプシンE量はLPS/IFN-γ刺激により著明に減少することが明かとなった。この原因としては細胞内での分解あるいは細胞外への分泌が考えられる。また、ペプスタチンAはミクログリアに対して形態変化、細胞増殖ならびに活性酸素産生のプライミング効果などの種々の作用を及ぼすことが認められた。
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