本研究ではまずミクログリアの活性化にともなうカテプシンEの動態を明らかにすることを目的として、新生仔ラット脳より分離した初代培養ミクログリアを用い、ミクログリアを活性化することが知られているLPS/IFN-γ刺激によるカテプシンEの活性ならびにタンパク量の変化を検討した。ミクログリアのカテプシンE量はLPS/IFN-γ刺激により著明に減少した。この原因としては細胞内での分解あるいは細胞外への分泌が考えられる。また、ペプスタチンAはミクログリアを細胞増殖期にあるロッド型ミクログリアに形質転換することが明らかとなった。 次に、活性化ミクログリアがニューロンに対してどのような影響を及ぼすのかについてLPS/INF-γにより活性化させた初代培養ラットミクログリアとNGFによりニューロンに分化させたPC12細胞の共存培養系を用いて検討した。活性化ミクログリアはニューロンに分化させたPC12細胞にカスパーゼ3依存性のアポトーシスを誘導した。ところが、Ac-DEVD-CHOの適用ならびにBcl-2の過剰発現はカスパーゼ3様酵素の活性は完全に抑制したが細胞死は一部しか抑制しなかった。形態観察を行うと、大部分のコントロールのPC12細胞はアポトーシス様の形態を示し、ミクログリアより貪食された。ところが、Bcl-2を過剰発現させたPC12細胞ではAc-DEVD-CHOを前処理した細胞と同様にアポトーシスとは明らかに異なった細胞障害の形態が観察された。電顕観察を行うとコントロールのPC12細胞では核クロマチンが一様に凝縮し断片化した核を有するアポトーシス小体が観察され、一部はミクログリアにより貪食されていた。一方、Bcl-2を過剰発現させたPC12細胞では核クロマチンは軽度に凝縮されていたが、明らかにアポトーシス細胞の核とは異なっており、細胞小器官の著明な障害ならびに空胞の蓄積が観察されネクローシス様の細胞死であることが判明した。以上の結果より、活性化ミクログリアはカスパーゼ3依存性のアポトーシスを誘導する経路ならびにカスパーゼ3非依存性のネクローシス様細胞死を誘導する経路を起動させることが明かとなった。
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