研究概要 |
ヒト唾液型シスタチンの遺伝子工学的生産と歯科医学への応用に関する研究を行い、今年度は以下の業績が得られた。(1)シスタチンSA(野生型)の第1ヘアピンループ(^<56>Q^<57>T^<58>V^<59>G^<60>G)および第2ヘアピンループ(^<106>P^<107>W)にアミノ酸置換を誘発する変異遺伝子を作成し、大腸菌によって対応する置換体を生産させた。置換体(^<57>I→D;^<59>G→D)のパパインおよびフィシンに対する阻害定数(Ki)は野生型の値に比較して10^2〜10^3倍であった。置換体(^<59>G→D)のカテプシンKに対するKiは野生型の30倍であり、カテプシンCに対しては1/50倍であった。この実験結果はシスタチンSAの第1ヘアピンループのアミノ酸配列がシステインプロテアーゼの阻害に重要であることを示唆している。(2)ヒトシスタチンAおよびB(ファミリー1)、ヒトシスタチンCおよび組換えシスタチンSA(SA1)ならびにその変異体SA2(ファミリー2)、高分子キニノーゲン(ファミリー3)、ヒト唾液高プロリン含有ペプチド(P-C,P-D,P-H)ならびにヒト唾液ヒスタチン1などがヒト歯肉繊維芽細胞やマウスひ細胞にインターロイキン6(IL-6)を誘導させ得るか否かを調べたところ、ファミリー2シスタチンだけに誘導活性を認めた。ごく最近の研究によればシスタチンがIl-6のレセプター(CD152)を刺激する可能性が高い。(3)IL-6は造血幹細胞の増殖や分化、破骨細胞の増殖、炎症、活性型B細胞による抗体産生の促進などに関与している。この事実と「シスタチンC,SA1,SA2が破骨細胞のカテプシンKの阻害剤として働く」という事実を合わせて考慮すれば、シスタチンは骨の分解と形成のバランスを保っていると考えられる。さらに間接的に免疫系に関与することにより生体防御の機能を担うと考えられる。
|