ヒト唾液に含まれるタンパク質(シスタチンS、シスタチンSA、シスタチンSN、シスタチンC、シスタチンD)はパパインファミリーに属するシステインプロテアーゼの非拮抗型インヒビターである。研究代表者はこれらのシスタチンが保有している生物活性や生理機能を歯科医療の分野に役立てることを目指した。研究の第一段階では、大腸菌にリコンビナントシスタチンを大量に発現させる方法を開発した。この発現系で製造されたリコンビナントシスタチンのプロテアーゼ阻害特性や生化学的特性はヒト唾液由来のシスタチン(天然型)と等価であることが判明した。この発現系を利用して天然型シスタチンの人工的エクソンシャッフリングによってデザインされたキメラシスタチンや部位特異的突然変異を施したシスタチンなども製造することができた。上記の改造型シスタチンは天然型シスタチンとは異なる新規阻害特性を発揮し、シスタチンの酵素阻害特性とアミノ酸配列の相関を解析するのに役立った。研究の第二段階では、リコンビナントシスタチンや改造型リコンビナントシスタチンを有効に活用することを試案した。その結果、組換え型のシスタチンS、シスタチンSA、シスタチンSNなどは歯周病菌Porphyromonas gingivalis由来のプロテアーゼ(gingipain)の活性阻害を行なうことはできないが菌自体の増殖を抑制することが判明した。この知見は人工唾液の開発にも貢献すると思われる。また、破骨細胞由来のカテプシンK(I型コラーゲン分解酵素)の活性を著しく阻害することが明らかとなった。この事実はシスタチンが骨代謝という生命現象にも深く関与していることを物語る。さらに、シスタチンがヒトの歯肉線維芽細胞にインターロイキン6および8を誘導生産させることを発見した。上記の研究成果はシスタチンが歯周病や骨鬆症などの疾患の理解や治療と予防に役立つ可能性があることを強調している。
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