肝細胞増殖因子(HGF)は肝細胞のみならず生体の様々な組織に広く発現し、細胞増殖、細胞運動性促進、形態形成誘導、腫瘍増殖抑制等のユニークな活性を有する塩基性蛋白質である。前年度の研究で、サル顎下腺においてもHGFおよびHGF受容体/c-MetのmRNAが発現していることを明らかにした。本年度は、さらにHGFおよびc-MetのmRNA発現の局在を組織化学的に検討した。また、HGFは in vitroで高いヘパリン親和性をもつことから、組織においてはヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)がHGF機能発現に何らかの役割を果たすものと考えられた。そこでHGFとHSPGの相互作用検討の基礎的資料を得るために、サル顎下腺HSPGの生化学的性状を解析した。 サル顎下線の組織切片を用いて in situ RT-PCRでmRNAの局在を調べたところ、HGFおよびc一MetのmRNA陽性反応はともに上皮系細胞の導管部細胞のみに限局していた。HGFは上皮一間葉相互作用のメディエーターとして高次細胞社会の構築を担う因子であると考えられているが、この結果は、唾液腺HGFが他の組織と異なる機構で合成・分泌される可能性を示唆している。 また、顎下線の一部からPBS一可溶性HSPGおよび膜HSPGを順次抽出し、イオン交換クロマトグラフィーで部分精製後、SDS-PAGEとイムノブロッティングで検出した。その結果、サル顎下線の主要なHSPGとしてsyndecanの存在が考えられた。そこで、RT-PCRでsyndecanfamilyのmRNA発現を調べたところ、syndecan-1、-2、-4の発現が確認された。今後、HGFの受容体となるsyndecanの特定を行いたい。
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