健常成サルの顎下腺を対象に、HGFの存在とHGFおよびHGF受容体/c-MetのmRNA発現を調べた。摘出顎下腺からタンパク分解酵素阻害剤存在下PBSでHGFを抽出し、ヘパリンカラムで部分精製後、ウェスタンブロッティングを行ったところ、HGFα鎖に相当する分子量約69kDaのバンドが検出された。また、顎下線の一部から抽出したRNAのRT-PCRで、HGFおよびHGF受容体/c-MetのmRNAが発現していることが明らかになった。さらに、組織切片を用いてin situ RT-PCRでmRNAの局在を調べたところ、HGFおよびc-MetのmRNA陽性反応はともに上皮系細胞の導管部細胞のみに限局していた。HGFは上皮-間葉相互作用のメディエーターとして高次細胞社会の構築を担う因子であると考えられているが、この結果は、唾液腺HGFがオートクリン機構で合成・分泌される可能性を示唆している。さらに、病態下でのHGFとc-Metの発現を検索することにより、顎下腺HGFの役割がより明らかになっていくものと思われる。また、唾液中のHGFの検討の臨床診断への応用も今後の課題であると考える。 HGFはヘパリン高親和性であり、組織においてはヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)がHGF機能発現に何らかの役割を果たすものと考えられた。そこでサル顎下腺HSPGについても調べた。顎下腺の一部からPBS-可溶性HSPGおよび膜HSPGを順次抽出し、イオン交換クロマトグラフィーで部分精製後、ウェスタンブロッティングで検出した。その結果、サル顎下線の主要なHSPGとしてシンデカンとグリピカンの存在が考えられた。RT-PCRでmRNA発現を調べたところ、シンデカン-1、-2、-4およびグリピカンの発現が確認された。今後、HGFの受容体となるシンデカンの特定を行いたい。
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