研究概要 |
E1AFはHigashinoらによって発見されたets-oncogene familyに属する転写困子で、種々の遺伝子の転写に関与することが示唆されている。われわれはE1AFが細胞外基質(ECM)の分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)l,3,9の転写を亢進させることをCAT assayにより示した。また、口腔扁平上皮癌由来細胞株をコラーゲンゲル上で三次元培養(Raft culture)することでin vitroでの浸潤モデルを作製し、浸潤性に増殖する癌細胞ではMMPl,9の発現がみられ、この様な腫瘍細胞の浸潤性増殖はE1AFによるMMP遺伝子の転写亢進によることを報告した。今回の検索ではウイルスペクターを用いてE1AFの発現を誘導し、転写因子E1AFがどの様な機構で浸潤性増殖に関与しているかを直接的に探ることを目的とした。 E1AF発現ベクターをHSC3に遺伝子導入し、E1AF発現HSC3(HSC3DOLF)を確立した。HSC3は浸潤性の増殖を示す口腔扁平上皮癌由来細胞であり、MMP-9およびE1AFが強く発現していることが報告されている。今回、このHSC3にE1AF発現遺伝子を導入し、E1AFをさらに強制発現させた。その結果、メッセージレベル・タンパクレベルの検索から、MMP-9の発現がさらに強くみられるようになり、同時にp21^<waf1/cip1>も発現していることが明らかになった。またヌードマウス舌に移植した腫瘍の組織学的検索からも、E1AFが腫瘍の増殖を抑制していることが示唆された。このことから、E1AFがp21^<waf1/cip1>遺伝子の転写活性化を介して細胞周期を制御している可能性が考えられた。 腫瘍細胞の悪性度の指標となる浸潤能と増殖能は、パラレルな関係にあると考えられるが、今回の結果から、腫瘍細胞の浸潤能と増殖能の発現は異なった細胞周期において生じている可能性があることが示された。
|