本研究では、齲蝕の免疫学的予防法の開発を目指して、Streptococcus mutansのもつ定着因子である菌体表層タンパク質抗原PAcの唾液結合機能領域(PAcA)と非水溶性グルカン合成酵素GTF-Iのグルカン結合領域(GB)やスクロース結合領域(SB)に対応する遺伝子断片を連結した。次に、この遺伝子をpTrc99Aプラスミドに挿入し、同プラスミドで大腸菌XL1-blue株を形質転換して、PAcとGTF-Iの機能領域からなる融合タンパク質(PAcA-GBおよびPAcA-SB)を発現させた。その後、Ni-NTAゲルを用いてこれらの融合タンパク質を精製した。 同融合タンパク質をウサギに経皮免疫して抗融合タンパク質抗体を調製し、各抗体の抗原との反応性をウエスタンブロット法で調べたところ、それぞれ高い特異性が認められた。これらの抗体のS.mutans菌体付着やグルカン合成におよぼす影響を調べたところ、以下の結果が得られた。 1)抗PAcA-GB抗体および抗PAcA-SB抗体は、スクロース非存在下におけるS.mutans菌体の唾液被覆ハイドロキシアパタイト粒子への付着を阻害した。一方、スクロース存在下におけるS.mutans菌体の唾液被覆ハイドロキシアパタイト粒子への付着は、抗PAcA-GB抗体によって強く阻害されたが、抗PAcA-SB抗体によっては阻害されなかった。 2)抗PAcA-GB抗体は、S.mutansの菌体遊離型と結合型のGTFによる非水溶性グルカンの合成やGTF-Iによるグルカン合成を強く阻害した。一方、抗PAcA-SB抗体は上記酵素標品によるグルカン合成にほとんど影響を及ぼさなかった。 以上の結果から、抗PAcA-GB抗体は、S.mutansの歯面定着の抑制に有効であることが示唆された。
|