本年度は、既に作製しているS.mutansのPAcの唾液結合領域(PAcA)と非水溶性グルカン合成酵素GTF-1のグルカン結合領域(GB)やスクロース結合領域(SB)からなる融合タンパク質(PAcA-GBおよびPAcA-SB)に対する特異抗体に加えて、ウサギ抗PAc抗体、抗PAcA抗体、抗GTF-I抗体などを調整した。その後、これらの抗体が両定着因子の機能におよぼす影響について比較検討した結果、以下の結果が得られた。 1) 抗PAcA-GB抗体、抗PAcA-SB抗体、抗PAc抗体、および抗PAcA抗体は、スクロース非存在下におけるS.mutans菌体の唾液被覆ハイドロキシアパタイトへの付着を阻害した。一方、スクロース存在下における同菌体の唾液被覆ハイドロキシアパタイトへの付着は、抗PAcA-GB抗体と抗GTF-1抗体によって強く阻害されたが、抗PAcA-SB抗体、抗PAc抗体、および抗PAcA抗体によっては阻害されなかった。 2) 抗PAcA-GB抗体は、S.mutansの菌体遊離型および結合型のGTFによる非水溶性グルカンの合成を強く阻害した。一方、抗PAcA-SB抗体はこれらの酵素標品によるグルカン合成にほとんど影響をおよぼさなかった。 3) 唾液によるS.mutans菌体の凝集は抗PAcA-GB抗体、抗体PAcA-SB抗体、抗PAc抗体、および抗PAcA抗体によって抑制された。 以上の結果から、抗PAcA-GB抗体は、S.mutansの歯面定着の抑制に有効であることが示唆された。
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