研究概要 |
プロト癌遺伝子の過剰発現や、癌抑制遺伝子の失活により腫瘍が発生し、それらの変化が重なって、腫瘍の悪性化、増殖、転移が起こると言われている。我々はラット顎下腺化学発癌過程におけるプロト癌遺伝子の発現および癌抑制遺伝子の変化を免疫組織化学的方法および分子生物学的手法を用いて検索している。 ラット顎下腺腺体内に1%DMBA/オリーブ油溶液を含ませたスポンジ片を埋入し、その後3,6,12週で屠殺し、処置した顎下腺を摘出し、m-RNAを抽出するとともに、パラフィン切片を作成し、c-erbB-2 mRNAの発現をRT-PCR法にて、c-erbB-2タンパク(P185)を免疫組織化学にて検索した。 c-erbB-2 mRNAのRT-PCR産物はDMBA/スポンジ埋入後6週の試料では60%に、12週の試料では全例に認められたが、正常顎下腺およびDMBA/スポンジ埋入後3週の試料では認められなかった。免疫組織化学的検索において、正常顎下腺は一般にP185陰性を示したが、一部の導管系上皮で陽性所見を認める場合もあった。埋入後3週の標本ではスポンジ周囲に散在する小さな上皮塊や導管様構造にしばしばP185陽性所見を認めた。埋入後6週の標本ではスポンジ周囲を取り囲むように増殖する前癌病変と考えられる角化重層偏平上皮の主に棘細胞層に相当する部分に陽性を示した。12週では全ての標本で偏平上皮癌の形成がみられ、P185はほとんどの腫瘍細胞に陽性を示した。 これらの結果はラット顎下腺化学癌の比較的初期でc-erbB-2プロト癌遺伝子の過剰発現が起こることを示すもので、c-erbB-2プロト癌遺伝子の過剰発現が発癌の因子となることが示唆された。
|