ラット顎下腺腺体内に1%DMBM/オリーブ油溶液を含ませたスポンジ片を埋入して作成した顎下腺癌を用い、導管系マーカー、筋上皮細胞マーカー、細胞増殖マーカーを用いて顎下腺発癌過程を検索した。導管系マーカーとしてK8.12ケラチン、上皮成長因子、エンドセリン3、S-100蛋白を、筋上皮細胞マーカーとしてカルポニンの免疫組織化学を用い、細胞増殖マーカーとしてPCNAの免疫組織化学と^3H-thymidineオートラジオグラフィーを用いた。 発癌剤投与後の増殖細胞は全ての導管系に認められるが、腺房細胞や筋上皮細胞においては増殖能の亢進はない。しかし、筋上皮様腫瘍細胞の存在が唾液腺腫瘍の組織形態に深く関与しており、腫瘍細胞が腺管様構造を形成する際には筋上皮様腫瘍細胞がその最外層に分化、誘導され、扁平上皮様の構造をとる場合には筋上皮様腫瘍細胞の分化・誘導はないと考えられた。また、腺癌の構造を呈する部分は介在部導管細胞が、扁平上皮癌の構造を呈する部分は介在部導管細胞および排泄導管細胞が腫瘍化した可能性が高いと考えられた。 ラット顎下腺の化学発癌過程における癌関連遺伝子の変化として、RT-PCR法によりc-erbB-2 mRNAの発現と発癌過程の進行状態に相関が認められ、その過剰発現が発癌の因子となることが示唆された。また塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)とそのレセプターが癌化過程の組織に共存することが免疫組織化学的に証明され、FGFがオートクラインあるいはパラクラインの機構で癌化に何らかの促進的影響が与えられていると考えられた。
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