研究概要 |
サイクロスポリンA(CsA)の副作用のとして、結合組織でのコラーゲン線維増生が著明な歯肉増殖症が知られている。そこで、結合組織の主成分であるI型コラーゲンの合成と分解について、ラットを用いたCsA誘発性歯肉増殖症モデル(Nishikawa et al.J Periodontol 1996,67,463-471)を用いて検討した。 CsA投与開始後、55日まで経時的に下顎大臼歯部歯肉から全RNAを分離し、RT-PCR法により同線維及びコラゲナーゼmRNAの発現を測定し比較検討した。内部標準G3PDHにて補正し0日でのmRNA発現を1.0とすると、薬物投与群及び非投与群共に、3日後に各々1.3,1.2となり以降経時的に減少し、55日では非投与群は0.25、投与群は非投与群の約1.0%のmRNA発現量となった。コラゲナーゼmRNAの発現も、両群ともに経時的減少を認め、55日では非投与群は約0.7、投与群は約0.15と抑制された。 今回使用した動物実験系では、歯肉結合組織において殆ど炎症を認めず、また正常歯肉においては、コラーゲン線維は主に線維芽細胞のphagocytosisにより分解されることが知られている。55日目の投与群及び非投与群の、各々下顎大臼歯部歯肉から線維芽細胞を分離培養後、Knowlesらの方法(J Cell Science 1991,98,551-558)に従い、collagen coated latex beadsの同細胞への取り込みをFACScanにて測定した。非投与群では、約30%の細胞がphagocytosis能を有しているのに対し、投与群では、殆ど取り込みはなく著しい抑制が認められた。以上の結果から、CsA誘発性歯肉増殖症はコラーゲン線維の分解抑制によると強く示唆された。
|