研究概要 |
炎症局所に滲出・遊走した好中球は,時間の経過とともにアポトーシスが誘導され,周囲のマクロファージによって速やかに貪食される.これは好中球の細胞融解(ネクローシス)に伴うプロテアーゼや活性酸素の放出を防止し,周囲組織が傷害されることを抑制する一種の炎症制御機構(組織破壊の抑制)として重要な役割を担っている可能性を示唆するものと考えられる.この研究の目的は,好中球アポトーシスの特異的な誘導による歯周組織破壊の制御機構について,特にアポトーシスを誘導する主要なシステムと考えられているFas/Fas ligandとその細胞内シグナル伝達系に着目し,歯周組織の炎症・免疫制御機構における好中球アポトーシスの役割について検討するものである.はじめに歯周環境因子による好中球の経時的動態変化を検討するため,トリパンブルー染色およびギムザ染色による細胞の生死判定と核の形態観察,さらにPI染色を施した好中球のフローサイトメトリー解析とアガロース電気泳動によるDNAの断片化を調べた.その結果,P.gingivalis LPS(10ng/ml)は好中球アポトーシスを遅延させることが明らかとなった.他方,P.gingivalis LPSによるFas,FasLおよびBcl-2タンパクの発現動態をWestern blot法およびRT-PCR法を介して検討した.その結果,好中球はFas,FasLおよびBcl-2タンパクを発現していること,さらにこれらタンパクの発現は経時的に変化することが明らかとなった.とくにP.gingivalis LPS添加群(12時間培養)ではFasLの発現増強が観察された.一方,培養上清中のsFasおよびsFasLのレベルをELISA法で検討した結果,P.gingivalis LPS添加群でsFasが有意に高いことが明らかとなった.これらの結果を総括すると,歯周組織破壊と密接な関係にあるLPSはFas/FasL系を介した好中球アポトーシスにも関与し,これを遅延していることが示唆された.
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