研究概要 |
この研究の目的は,好中球アポトーシスの特異的な誘導による歯周組織破壊の制御機構について,特にアポトーシスを誘導する主要なシステムと考えられているFas/Fas ligandとその細胞内シグナル伝達系に着目し,歯周組織の炎症・免疫制御機構における好中球アポトーシスの役割について検討するものである.前年度までにP.gingivalis LPSが好中球アポトーシスを制御すること,そしてそのメカニズムとして,LPSは可溶性Fas(sFas)の細胞外への遊離と膜結合性FasLの遊離を増強することから,sFasの増加に伴う膜結合型Fasとの競合作用と可溶性FasLの増加が部分的に関与している可能性を示唆した.そこで本年度は,LPSを介した細胞内シグナル伝達機構についての検討を行った.LPSで前処理した好中球は,抗Fas抗体(CH-11)によるアポトーシスを遅延させる.この系にチロシン・リン酸化酵素阻害剤(herbimycin Aおよびgenistein)を添加すると抗Fas抗体(CH-11)によるアポトーシスは顕著に増強された.さらに,p38MAPKの特異的阻害剤(SB203580)の添加によってもアポトーシスは増強された.一方,チロシン・脱リン酸化酵素阻害剤(orthovanadate)およびERKの特異的阻害剤(PD98059)の添加では明らかな影響を受けなかった.これらの結果から,LPSは細胞内のチロシンキナーゼおよびセリン・スレオニンキナーゼの活性化を引き起こすことが明らかとなった.そこでSrcファミリーチロシンキナーゼ(Lyn,Hck,Fgr)とMAPK(p38MAPK,ERK,JNK)のリン酸化におよぼすLPSの影響を免疫沈降法およびイムノブロット法によって検討した.その緒果,LPS刺激による好中球の細胞内シグナル伝達にLynおよびp38MAPKの活性化が関与していることが明らかとなった.
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