炎症性サイトカインやリポ多糖などの細菌由来因子は、自発的な好中球アポトーシスを遅延させることが知られている。本研究でkPorphyromanas gingivalis(P.gingivalis)由来のリポ多糖(LPS)が好中球アポトーシスの遅延に関与するかをトリパンブルー排除試験、形態学的観察、FACScanによる解析およびDNA fragmentationを指標にして検討した。好中球は培養時間とともに、クロマチン凝縮、核内DNAの断片化あるいは細胞膜の空砲化といったアポトーシスに特有の所見を示した。このようなアポトーシスに特徴的変化はLPSを投与することにより遅延された。そこで、LPSによるアポトーシス遅延のメカニズムが、アポトーシス誘導の主要メカニズムの一つであるFas/FasLに関与するか否かをタンパクおよびmRNAレベルで検討した。Fasの発現量はLPS処理群と未処理群のあいだで有意な差を認めなかったが、FasLの発現量はLPS処理群でわずかに減少する傾向が認められた。他方、FasおよびFasLはいずれも可溶型の存在が報告されていることから、培養上清中の可溶性Fas(sFas)およびFasL(sFasL)の定量を試みた。sFasはLPS処理群および未処理群でいずれも1時間後から検出された。これらの結果は、ELISAによるsFasおよびsFasLの定量結果と一致していた。Fasはalternative splicingによる5つのvariantが存明らかにされている。そこで、どのvariantが存在するかをRT-PCR法によって検討した。その結果、ウェスタンブロットで唯一検出されるFas Exo6Del以外にExo3およびExo4を欠損しているvariantの存在が明らかとなった。さらに、定量RT-PCR法によるFasおよびFasLのmRNAの発現はほとんど変化を認めなかった。従ってP.Gingivalis LPSによる好中球アポトーシスの遅延メカニズムとして、sFasの細胞外への遊離の促進に伴う膜結合型Fasとの競合作用と膜結合型FasLの遊離が部分的に関与している可能性を提唱する。
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